今回は、2022年発売の文庫本「大俳優 丹波哲郎」のレビューです。
2004年に発売された単行本が、丹波哲郎生誕100周年を記念し、ワイズ出版映画文庫が新装文庫本として再発売。以前、「不死蝶 岸田森」のレビュー記事を投稿した際、「今回同社の別の本を買うことになった」と記載していたのはこの本のことであり、資料編含めて「不死蝶 岸田森」以上の読み応えがあり、丹波哲郎という俳優の様々な一面が知れたと同時に、満足感もひとしおでした。
なお、上で少し触れた、「不死蝶 岸田森」のレビュー記事は↓コチラです。
bongore-asterisk.hatenablog.jp
※なお、今回も敬称略でお送りします。
制作時、そして初版発行時に本人が生きていたことから、「不死蝶 岸田森」のとは違い、終始対談形式で文章が記述。章分けは全11章とかなり細かく分けられており、それが約350ページあったのち、同程度のボリュームで資料編(氏が出演した作品データ)が添付されています。
語られている内容も様々で、自身の生い立ちはもちろんのこと、国内映画・外国映画での撮影の裏話、自分を取り巻く人々の話、生涯研究し続けた霊界の話等々。1つ1つのボリュームがとんでもなく大きく、かなり圧倒されしてしまいました。
対談形式で記述されているため、一部手直し等は入っているものの、基本的には氏の喋り言葉がそのまま記述。もう文章を読んでいるだけで、「あ〜、こんな感じで喋ってそうだな」と想像でき、ニヤニヤしちゃいました。
外国映画の章は特に興味深く、『007は二度死ぬ』等の裏話が満載。自分なりの俳優論を持っていた彼が、アメリカやイギリスのプロデューサーにも負けずに意見を通し(決してワガママではない)ていたというのは、素直にカッコいいと感じました。
一部のウワサや伝説は知れ渡っているものの、細かな人となりは意外に知られていないのではないかという感じの氏。本書を読んで、彼の素顔がわかったと同時に私が感じたのは、「氏がなぜここまで愛される俳優となったか」ということでした。
知らない人のために一応記述しておくと、丹波哲郎という俳優は、俳優としてのキャリアスタートはわりと遅く、若いときから態度はかなりデカめ。基本的に人を呼ぶときは名字の呼び捨てで、撮影現場には遅れてくるし、ろくすっぽセリフも覚えやしない―。これだけ書いていると、とんでもない人間に思えますが、彼は多くの監督や俳優・女優に愛され、俳優として常に第一線で活躍し続けました。
なんでこのような俳優が、そこまでやってこれたのか。それは、こうした一連の行動の根底に、彼なりの矜持と論理があり、また誰に対しても分け隔てなく接する表裏の無さがあったからでしょう。
まず、彼なりの矜持と論理。上述のとおり、仕事に対してだらしない感じがする氏ですが、彼なりの演技論はキチンと持っており、演技の際はそれを実行。セリフもさすがにザッとは覚えてきているので(それでも、細かい登場人物の名前は忘れてることが多いけど)、それをちゃんと発し、ドラマをピリッと引き締めてくれていました。確かにだらしない一面はあるけれど、仕事をやるときはやるし、行動も単なるその場の思いつきではない。こうした、ある種の"筋を通す"部分が、氏にはあったのです。
続いて、誰に対しても分け隔てなく接する表裏の無さ。誰彼構わず呼び捨てにし(本書内でも、往年の名優や監督を次々に呼び捨てにしてる)、さんとか君をつけるのは親しい人のみという彼。これだけ見ると、かなり態度が悪いように見えますが、一方で氏は、相手が偉いからだとか、外国人だからとかで、その当たり方を変えることはありませんでした。
そして、もともとカラッとしている性格なので、撮影現場で何かトラブルがあっても、ずーっと引きずることはない。以前通りに接してくれる。そうした表裏の無さが、氏の人としての魅力を高めてくれていたのでしょう。
大俳優にして名優、丹波哲郎。彼が亡くなって、もう15年超です。
丹波哲郎という俳優の様々な一面を知ることができる、「大俳優 丹波哲郎」。氏を知っている、見たことがあるという人が読めば、きっと彼の持つ魅力を、この本を通して痛感することができるでしょう。
名優と呼ばれる人は、今の日本映画界にもいるけど、丹波哲郎のような立ち位置の俳優はいませんね。貫禄と愛嬌を兼ね備え、当然にバッチリ演技ができる俳優、出てこないかなぁ。
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