今回は、2017年発売の文庫本「不死蝶 岸田森」のレビューです。
2000年に初版が、2006年に改稿版がそれぞれ発売された単行本を、ワイズ出版映画文庫が新装文庫本として再発売したもの。それに併せて、氏の写真や映画等の劇中画像が追加され、生前の様子がより鮮明にわかるようになっています。500ページ超という、文庫本にしてはかなりの分厚さを誇っており、非常に読みごたえがありましたね。
私がこの本の存在を知ったのは、約2年前。それからずーっと、書店で見かけては「買うのどうしようかなぁ」と迷っていたのですが、今回同社の別の本を買うことになったので、それと併せて購入。ようやく家でゆっくり読めることになりました。
※なお、今回は敬称略でお送りします。
本の構成は、著者による氏の解説から始まり、生前の氏が残したエッセイやインタビュー原稿の原文ママの紹介を経て、氏を知る関係者等のインタビュー、最後に弔辞と出演作品の資料の各紹介という形。この中で最もボリューミーなのが、関係者等へのインタビューです。
インタビューは非常に多種多様な人々に敢行しており、岡本喜八監督や実相寺昭雄監督、水谷豊といった(氏との関係が深いという意味で)メジャーなところから、近所に住んでいた友人や番組ディレクターまでと、「よくここまでできたな!」という感じ。各々に思い出があり、氏の人となりがわかる感じでした。
様々な人々のインタビューを読んで感じるのは、氏は交友関係が広く、相手から愛されていた一方で、どこか常に、影というか一種の虚無感を覚えていたのかなというもの。それは精神的に不安定とかそういうものではなく、仕事をしているとき等で満たされているぶん、いざプライベートで1人になった瞬間、その落差から来るものに苦しんでいたのではないでしょうか。作品ではクールだったり強烈なキャラ付けの役をやることが多かった氏ですが、本当は非常に人間味あふれる人物だったんだなと思えましたね。
本書籍ではこのほかにも、『帰マン』において氏が執筆した脚本「残酷!光怪獣プリズ魔」の決定稿も収録。特撮ファン的には、これはかなり見逃せない項目と言えるでしょう。プリズ魔の話って、プリズ魔自身の強さばかりが語られがちだけど、デザインもお話そのものも恐ろしさの中にどこか美しさも孕んでいるのが、なんとも言えない味わいを生み出してますよね。
昭和の名優である、俳優:岸田森。この「不死蝶 岸田森」では、意外に彼の出演した特撮作品にかかる言及は少ないですが、生前の彼の人となりや感覚がわかる、超貴重な書籍と言えるでしょう。
ああいう、スマートさの中にコミカルさ、ひ弱さの中に強さを秘めた俳優って、なかなか見かけないよね。個人的には、最近だと渡邊圭祐さん(『仮面ライダージオウ』のウォズ)にその片鱗を感じるんだけど、演技にそこまでのパッションを感じないんですよね(決して下手だという意味ではない)。
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