「夜行列車には、旅客列車の他に、貨物、荷物の列車もあります。(中略)午前3時という時間に限っていえば、この時刻に、線路上を走っている列車は、約500本あります」―。今回は、西村京太郎トラベルミステリーの初期代表作の1つ:『夜行列車(ミッドナイト・トレイン)殺人事件』のレビューです。
最近、なぜかトラベルミステリー熱が再燃しつつある私。トラベルミステリーはテレ朝版・TBS版の2時間ドラマはもちろんのこと、原作である小説版も、すべてではないですが何冊か読んだことがあります。
そんな中でも、この『夜行列車殺人事件』は、私が読んだことがなかった作品の1つ。あらすじの壮大さに惹かれて思わず手に取っちゃいました。ブルートレインが斜陽を迎える直前の、国鉄時代のダイヤ・駅構内を使ったトリック。列車種別がパターン化され、手軽にモノを調べられるようになった現代では生み出せないトリックが見もの(読みものというべきか?)でした。
STORY:「夜行列車」・「午前三時」・「爆破決行」・「四月吉日」という謎の文書が、国鉄総裁のもとに届けられた。捜査に乗り出した十津川班は、狙われている夜行列車やその犯人の捜索に全力を尽くすが、有力な手掛かりは得られない。そんな時、出雲に旅立ったはずの青年が青森で殺されるという事件も起きた。目的不明の爆破予告と、奇妙すぎる殺人事件。この2つの事件は、やがて“午前3時”という共通項を機に、1つにつながっていく―。
西村京太郎トラベルミステリーは、今でこそ特定の路線やその列車を舞台にした作品が多いですが、初期の作品は列車を限定しない作風であるが特徴的。この『夜行列車殺人事件』も、直接的に事件にかかわる列車だけでも5つくらい登場します。
本作で特徴的なのは、ダイヤトリックやその列車や駅をめぐる登場人物の心情よりも、犯人と十津川班&国鉄の、爆弾をめぐる緊迫した攻防に重点が置かれている点。犯人と思われる人物は中盤で判明するため、後半では上述の展開が主になります。ここで単に敵(犯人)対味方(十津川警部側)の構図になるのではなく、その見方側でも、十津川班と国鉄の見立ての違いによりそれぞれ動き回っている形になっており、ひねりが加えられていて面白いです。
「出雲に行ったはずの男性が青森で殺された」ということのトリックも、鉄道ダイヤや駅名がポイントになっているのがGood。しかし、こんな奇妙なことが起きたことのキッカケづくりは、ちょっと無理があるような気がしないでもないかなぁ。
十津川警部が西は出雲・東は青森と動き回り、そして多彩な夜行列車が登場する本作。鉄道ファンでなくとも、とても旅情を感じる作品にもなっていると感じますね。
ストーリーも壮大で、ドラマ映えしそうな展開である本作。にも拘わらず、本作がなかなか映像化の機会に恵まれなかったのは、おそらく舞台が日本各地になることからロケに費用が掛かること、そして終盤で列車が犯人の被害に遭う描写があり、このシーンを作るのにもまた様々な困難があるからでしょう。
また、男性が出雲→青森と全く違う場所にいたことのトリックを破る鍵が写真にあるのですが、これをそのまま映像化してしまうと、おそらく分かる人はすぐにそのトリックが見破れてしまいます。これも映像化を難しくしていた要因とも言えるでしょう。小説という媒体だからこそ、完全成立しているトリックだといえるかもしれません(もちろん、映像化しても十分に楽しめるものだとは思いますが)。
西村京太郎トラベルミステリー。作品によってのトリックの精巧さや話の構成にかなりのムラがありますが、この『夜行列車殺人事件』は、たとえファンでなくとも手に取って読んでみるだけの価値はあると感じます。
ああ、これを映像で観てみたいよなぁ。まあ、この作品に出てくる主な夜行列車はほぼすべて廃止されてるから、今となってはかなわぬ夢なんですけどね…。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
Twitterやってます。よろしければ↓閲覧&フォローの方お願いします!