今回は、4月6日に発売されたムック『西村京太郎の推理世界』のレビューです。
今年惜しくも亡くなった、トラベルミステリーの本家本元であり、その名を知らない者はいないであろう、西村京太郎氏の追悼ムック。名だたるミステリー作家が寄稿しているほか、氏の中編作品のピックアップ収録や、過去に『オール讀物』で掲載された対談集を収録。氏の作品そのものだけでなく、その人となりや今の地位に至るまでの過程がハッキリとわかり、資料価値の非常に高いムックに仕上がっていましたね。
なお、当ブログで気まぐれに取り上げてきた、西村京太郎トラベルミステリー関連の記事は↓コチラです。
bongore-asterisk.hatenablog.jp
本書は大まかに、「生前の氏を知る作家や編集者の寄稿・対談」・「『オール讀物』で掲載された対談集等」・「氏の中編作品」の3パートに分けることが可能。それぞれそう簡単には読めなさそうな企画や作品ばかりであり、その濃厚さにはビックリさせられました。
まずは、「生前の氏を知る作家や編集者の寄稿・対談」。これは赤川次郎氏から始まり、東野圭吾氏、綾辻行人氏と有栖川有栖氏の対談等、ミステリーにそんなに明るくない(私もそこまで詳しいわけではありませんが)人でも名前は知っている、錚々たる作家たちが名前を連ねていました。
各作家ともに様々な視点から書いていましたが、一番印象に残ったのは、やはりトップバッター:赤川次郎氏のもの。彼は後述する「『オール讀物』で掲載された対談集等」でも登場しており、かつそのときも似たような話題を出していることから、いかに彼が氏のある特徴に衝撃を受け、そして印象深かったのかがよくわかりました。
それにしても、赤川次郎氏ってもうとっくに70代突入してるんだ。昭和末期からバリバリ書き続けられてるから、まあ年齢的にそうだろうなとは思うけど…なんか信じられないや。
続いて、「『オール讀物』で掲載された対談集等」。こちらは既に故人である著名な作家たちとの対談や、あるいは氏にスポットを当てたインタビュー等、形式は様々。驚くほど自分の過去や実情をざっくばらんに話していたのは、かなり衝撃的でした。個人的に、氏ってあまり一般メディアのインタビューとか番組に出なかったイメージがあるから、なんか意外でしたね。
そんな面白さの中で興味深かったのが、氏は1930年生まれであることから、戦前・戦中・戦後の社会をそれぞれ肌で感じており、その回想自体がかなり歴史資料的な価値を持っていること。旧日本軍の幼年学校の雰囲気や思い出を、回想しながらサラッと語れる人なんて、もう今の日本ではほとんどいないことでしょう。
そして最後は、「氏の中編作品」。本書では「歪んだ朝」(第2回オール讀物推理小説新人賞)・「美談崩れ」・「見舞の人」・「夜行列車『日本海』の謎」・「事件の裏で」の5編を収録。この内「歪んだ朝」は、当時の講評や氏の言葉まで原文ママで載せており、かなり貴重なものになっていました。
なお、各作品の感想は以下のとおりです。
・山谷のドヤ街を舞台とする、社会派ミステリー。ある少女の殺人事件から別の殺人事件が判明するその流れは巧み。死体の隠し場所に主人公がいささか都合よく気づきすぎなのが難点だが、物語全体のテンポがいいので、それほど気にならない。
「美談崩れ」
・とある地方都市に赴任した新聞記者が、交通事故に隠された人々の思いに迫るお話。謎は明かされるものそれが真実かどうか不明のまま、また主人公も結局報われないという、イヤミスチックなのが新鮮。主人公の行動が若干強引だが、「特ダネを求める新聞記者」という設定で、多少緩和されている。
「見舞の人」
・女子高生が入院中に出会った入院患者と、その患者を見舞いに来る男性を巡るお話。男性の持つ秘密と起きる殺人のトリックがそれぞれ独立しており、さらに主人公を女子高生とすることで、ライトな感じに仕上げているのが読みやすくてGood。ただし、せっかくの殺人のトリックを、犯人含めて地の文でバタバタとまとめているのが、とてももったいない。
「夜行列車『日本海』の謎」
・十津川警部シリーズの1つ。妻:直子にスポットを当て、さらに舞台設定の都合上亀井刑事が出てこない異色作。殺人トリック自体はそれほど画期的ではないものの、「貨物列車とそれに過去つけられていた愛称(列車名)」の要素を組み合わせることで独自色を出しているのが素晴らしい。直子の過去も詳細にわかる、貴重な一編。
「事件の裏で」
・十津川警部シリーズの1つ。十津川が丸ノ内線で出会った女性が翌朝殺された事件をキッカケに、彼が過去に担当した事件と、時同じくして出所したその犯人の行動や心理が絡まる形になっており、盛り込まれている要素はまさに秀逸。ただ、お話の中で、当然それらの真実と殺人の動機は明かされるものの、それを「十津川が自ら解き明かす」というより「偶然犯人の立ち話を聞いたから」でまとめてしまっているのが残念。十津川の心理的葛藤も描いていることから、もうひと押しあれば傑作になっただろうなぁという印象。
さて、この『西村京太郎の推理世界』は、全国の書店やネット通販で販売中。発売したてのときは、一時的な在庫切れも発生しましたが、現在は安定して在庫が供給されているようです。
氏の人となりや作品の傾向を知ることができる、本当に資料価値の高い一冊。持っていて損はないですよ。
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