お前それ、ゾフィーにも同じこと言えんの?ver.2.0

主にウルトラマン・仮面ライダー・スーパー戦隊シリーズなどの特撮関係の話題等を扱っていこうと思います。

『獣人雪男』ちょっとした感想

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「あれは、見たこともない動物だった。強いて言うなら、“雪男”かな―。」今回は、1955年8月公開の映画『獣人雪男』のレビューです。

 

映画内の鮮烈な描写からか、日本国内では未ソフト化となっており、『ウルトラセブン』第12話と並んで、特撮界の封印作品としてその名が知られている本作。しかし、映画館での期間限定上映はちょくちょく行われており、今回はラピュタ阿佐ヶ谷で行われていた上映会にて視聴。貴重な体験をすることができました。

 

確かに鮮烈な描写はありましたが、正直「そんなに慎重になってソフト化を避けるほどか?」と思えるものでした。日本特撮の黎明期を感じ取る作品として、『ゴジラ』等と並んで、もっと評価や研究が進められるべき作品だと感じたけどなぁ。

 

※今回は、敬称略でお送りします。

 

 

 

STORY:飯島高志(宝田明)・武野道子(河内桃子)らK大学山岳部のメンバーは、正月休みを利用しての日本アルプス登山中、武野(岡部正)ら一部メンバーが遭難してしまう。翌朝、地元民で結成された捜索隊とともに雪山を探した結果、発見したのは、破壊された山小屋と、熊以上の大きさを誇る足跡だった。この山には、得体の知れない何かがいる。雪解け後、仲間と謎の動物を探すため、飯島らは再び日本アルプスに入る。そこで彼らが見たものは―!?

 

同時期の『ゴジラ』や『空の大怪獣ラドン』が、「怪獣という明らかに人知を超えた未知なる生物との遭遇」という、娯楽性も多分にあるドラマづくりであるのに対し、本作は途中まで(主役であるはずの)雪男が登場せず、比較的淡々としたドラマで進行。「あくまでもドラマを主体として、そこに特撮描写を織り交ぜる」という形に。まだ『ゴジラ』が生まれて間もない頃にこうした発想とドラマづくりがあったことに、非常に驚かされます。

 

登場する雪男のスーツも、非常に完成度の高いもの。特殊メイクもかなり凝られており、近影で見ても、パッと見着ぐるみであることが全くわかりません。デジタルリマスターされていない本当にそのままのフィルム上映だったこともあるのでしょうが(画質が粗いので特撮の粗も分かりにくくなる)、それを加味しても、雪男の着ぐるみの出来は、オーパーツかと言いたくなるような素晴らしいものでした。

 

 

ただ、その一方で、残念なのがドラマ。本作は大きく分けて「飯島らが友人を探す」・「悪徳興行師大場(小杉義男)との競争」・「部落民チカ(根岸明美)の叶わぬ飯島への恋」・「雪男の怪奇と悲哀」の4つの要素が盛り込まれていますが、これらをこなすためには上映時間95分は短すぎ。そのため、全体的にちぐはぐになってしまっています。

 

しかも、オマージュのつもりか興が乗ったのか、途中から明らかに『キングコング』を意識した描写とドラマが展開。一応、ドラマ内において必要な描写ではあるのですが(大場たちの因果応報につながる)、ここで時間を食うため、余計にドラマに割ける時間が無くなっちゃってるんですよね。スクリーンプロセスやミニチュア等、確かに特撮描写は頑張ってたけど、ドラマ的には遠回りしてた感があるかな。

 

また、部落民チカの恋も、描写不足で唐突な感じは否めない印象。彼女が飯島との仲を優先したばかりに、悪手を打って、大場に騙されるわ雪男の怒りを買って村を壊滅させられるわと散々な目に遭うことになりますが、彼女の心情の移り変わりをややすっ飛ばしているせいで、全然彼女に共感できません。「あれだけ部落の掟に逆らえば怒られるし、雪男の怒りもあんたが招いたことだよね」としか感じられませんでした。道子と並んで本作ノメインヒロインと言えるのに、あんまり活用できてなかったなぁ。

 

そんな本作のラストは、チカが道子を救おうとして、雪男とともに誤ってマグマに転落するというもの。雪男は散々人間に翻弄されて死ぬという、なんともかわいそうな役回りになっています。マジで雪男って、終盤で道子を誘拐したこと以外悪いことしてないんだよなぁ。本当、被害者だよ…。

 

 

ちなみに、様々なムック本等で言及されている「部落にかかる描写」は、本当に存在。チカを除けば障害者だらけの村という描写になっており、これはおそらく、「閉鎖環境下で近親相姦を繰り返したことによる遺伝子異常」の暗喩なのでしょう。

 

実は、雪男を主として祀っていることから、雪男の正体に迫るうえでは、ドラマ上意外に重要な位置にあるこの部落。差別表現出まくりのシーンが連続し、確かに現代的価値観で観ると「ちょっとこれは…」となるものですが、ソフト化に慎重になるほどのものかな、とも感じました。

 

こうした描写になってるのは、おそらく差別するためというよりも、「制作側のイメージした未開の部落をそのまま具現化したから」なのでしょう。なので、「この描写を挿入して意図的に差別してやろう」なんて意識は、当時の制作側にはなかったと思われます。こういった表現は、大小問わなければ、他の昔のドラマにだっていくらでもあるじゃないですか

 

時代とともに価値観は変わる。でも、だからといって、今の価値観に逆に囚われ、昔の作品をある種ジャッジするのは、非常に愚かしい行為だと感じます。

 

今の価値観だって、未来永劫絶対じゃないのだから、「この時代はこうした文化だった/こうした考え方だった」でいいじゃないですか。なんでそんなに敏感かつ慎重になるのか、私には全く理解できませんね。

 

 

 

 

全体的にちぐはぐ感は否めないものの、自然の表現を特撮でやろうとしたり、ドラマ面で様々な試みが挿入される等、間違いなく意欲的作品だったと言える『獣人雪男』。できるだけ早くに、この作品がソフト化等され、多くの特撮ファンの評価の俎上に乗ることを願うばかりです。

 

そういや、この映画のキャッチコピーが「魔か原始人か? 怪力と戦慄の巨獣人、これが雪男だ!」なのに、全然大きく見えなかったな。メインキャストである宝田明河内桃子が、当時の日本人にしてはかなり大柄だったからかなぁ…(それぞれ182cmと170cm)。

 

 

 

 

 

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