今回は、2021年11月1日(月)〜昨日2022年4月8日(金)までNHKで放送された、連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の感想記事です。
大阪放送局制作の朝ドラで、3世代のヒロインがリレー形式で主役となり、物語を紡いでいくという変わった形式が取られた本作。そのドラマは、登場人物の心理描写を丁寧に行い、同時並行で伏線を張ってそれをどんどん回収しては次のステップ(未来の展開)に進んでいくという形になっており、視聴者をのめり込ませてくれる、濃厚で面白いものに仕上がっていました。
私が朝ドラを習慣的に観るようになったのは、社会人になって生活も落ち着いてきた時に放送されていた『べっぴんさん』(2016年度下半期)あたりからですが、この『カムカムエヴリバディ』は、それ以降の中で、現時点で最も面白い作品になったなと感じました。現行一般ドラマでここまでハマったの、久しぶりな気がするなぁ。
『カムカムエヴリバディ』の面白さ。それは、上述したとおり「登場人物の丁寧な心理描写」や「巧みな伏線回収」にその主があると言えますが、それにプラスして私が感じるのは、「登場人物の持つ“過去”の説得力」です。
ドラマにおいて伏線回収というのは、「序盤にあったこと・ものが、中盤や後半の展開に影響する」もの。それに当てはめると、本作における「序盤」とは、るいにとっては安子編、ひなたにとっては安子編&るい編のドラマになります。
そして、そうした伏線は、1人の主人公にスポットを当てる通常のドラマであれば、「序盤」は匂わされる程度で描かれますが、本作は3世代ヒロインの形式が取られているため、るいやひなたにとっての「序盤」が、そのドラマと同程度のボリュームで描かれている。これが、本作の伏線回収にドラマチックさを与え、さらに過去が存在することの重みと説得力を付加してくれているのです。これが本当に素晴らしい!
…と、ここまで書いてきて自分でもわかりにくいなと思ったので、「登場人物の持つ“過去”の説得力」の例を挙げましょう。
ひなた編において、ひなたと五十嵐が破局し、落ち込んでいる各々にるいと錠一郎が過去を絡めて語るシーン。もしこの作品がひなた単独主人公(ひなた編のみ)のドラマであれば、るいと錠一郎の語りも「そういうことがあったんだ―」程度で終わってしまうでしょう。
しかし我々は、彼らの過去について、るい編で観ています。そして、彼らの語ることが真実であり、さらにどのような感情を抱いてきたのかを知っています。
これにより、このシーンではひなたや五十嵐に感情移入出来るのはもちろん、るいや錠一郎に感情移入することも出来、ドラマの深みを味わうことが出来るのです。
1つのシーンで登場人物双方に感情移入し、しかもその根拠がキチンと過去の展開にある―。これほどドラマとしてよく出来た構成があるでしょうか。もう、序盤から観てきた視聴者にとっては感涙ものでしたよね。
一方で、「伏線回収をやりすぎて、ドラマにリアリティが無い」と言えばそうかもしれません。
安子とるいの再会なんて、普通じゃあの展開はまずありえないだろうし、それ以外にも細かい描写に目を向ければ、「普通はそれありえないんじゃないの?」と思うところもいくつかあります(幼いるいが1人で大阪まで安子を探しに行く、30代のひなたが走って80代近くの安子に追いつけない等)。
しかし、私はそれでも「あらゆる意味でこの作品はよく出来たドラマであり、とても面白い作品だった」と思います。純粋なドラマ本編の中で、キチンとほぼ全ての謎を解明し、登場人物のその後まで描ききれる作品は、なかなか無いですよ。
でも、不満があるとするなら2つ。
1つは、最終回のラストのナレーションが「100年の物語は、これでおしまい。」で終わってしまったこと。ドラマを観ていれば、ひなたの、そしてさらにその未来の子孫たちのドラマが続いていくのは明らかですが、ナレーションでも「そして、新たなる100年のはじまり。」みたいな感じで、未来を予感させてほしかったですね。
あともう1つは…やっぱり、稔には生きて帰ってきてほしかったなぁ。
そうそう、全く話は変わるけど、本作の登場人物は皆、関西弁に全然違和感がなかったですね。関西出身の人が多いわけではないですから、いかに出演陣が努力したかが窺えました。
連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』。それまでにも「これまあまあ面白いな」と感じる作品はありましたが、私がこれほどまでにのめり込んだ朝ドラは、生まれて初めてでした。
これを機に、脚本家の藤本有紀さんの他作品も観てみたいなぁ。特に『平清盛』は、リアルタイム時父がドハマりして一緒に観てたんだけど、私自身は流し見感覚だったので、そんなに記憶に残ってないんですよね。今思えば、惜しいことしてたなぁ。
そういえば、5月から順次、本作のBlu-ray BOXが発売になるんですよね。全部引っ括めると4万円超えか…。でもやっぱり、これは押さえるしかないでしょ!
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