今回は、3月29日に訪問した東京都現代美術館のレポート・後編。「井上泰幸展」についてお送りします。
『ラドン』なとの東宝特撮映画等でその腕を振るい、間違いなく日本特撮の歴史にその名を遺したと言える、井上泰幸氏の展示。名前以外ははっきり言ってほとんど知らなかった私ですが、この展示を通して、氏の仕事の巧みさはもちろん、その人となりも知ることができたように感じました。
なお、本記事の前編にあたる、同期間内開催中の「吉阪隆正展」の記事は↓コチラです。
bongore-asterisk.hatenablog.jp
展示はタイトル通り、特撮美術監督としての井上泰幸氏の所蔵していた資料やミニチュア、生前使っていた道具の展示が中心。しかし、単に時系列で並べているのではなく、氏の人生を紹介しながら展示が進んでいく構成になっており、冒頭に述べた通り、その仕事と技術の高さだけでなく、どういった人生を歩んできたのかも合わせて理解を深められるようになっていました。
展示の中で特に目を引いたのは、各映画でミニチュアセットを作る際に描き起こされた、ミニチュアの設計図面や絵コンテの数々。設計図面の方は、全て方眼紙に手書きなのにもかかわらず、その緻密さはパソコン並。一瞬、パソコンで製図したのかと見紛うほどでした。東宝特撮を支えてきたミニチュア1つ1つは、こうして設計され作られてきたんだなぁ。普通の設計図面ではありえない、爆破や可動ギミックの仕込み方も描かれていたのも、興味深かったです。
また、絵コンテのほうは、監督が作ったものではなく、それをもとに氏が独自に作り上げたものを展示。美術監督が自ら絵コンテを描き、シーンそのものを想像することで、ミニチュアセットのリアリティを高めるだけでなく、そのセットそのものにドラマ性を与えたのだという事実を知り、目からうろこ、口があんぐり開きそうになるくらい驚きました。今までミニチュアは、監督の指示で怪獣等が見えやすいように効果的に配置されているのかと思っていましたが、氏がかかわった作品では、ちゃんとその配置まで美術監督が考え、「なぜそうである必要があるのか」ということまで考えられていたのですね。
そのほか、妖星ゴラスの実際のミニチュアや、氏がかかわった多くの作品の決定稿台本など、よく残っていたなと言いたくなるような貴重な品々の展示が目白押し。この展示は本当、特撮ファンなら行って損はないものですよ。
そして、この展示のトリを務めるのが、『空の大怪獣 ラドン』のラドンが西鉄福岡駅を襲撃するシーンを再現した巨大ミニチュアセット。まずそのデカさに圧倒されたほか、なぜここまで作りこめるのかと問いたくなるような素晴らしい精巧なミニチュアには、本当によだれが垂れそうになりました。
館内で流れているメイキング映像から、現代技術を駆使しながらも、基本的には当時の技術や作り方を再現しながら組まれたというこのミニチュアセット。約60年前のオリジナル制作時は、これ全部手作業でやってたんだよね…。それでいて、当初のスケジュールをまったく崩すことなく組み上げちゃったと言うんだから、いかに氏がその設計や製作だけでなく、スケジュール管理においてもキッチリされていたかがうかがい知れることでしょう。
ちなみに、本展示にかかわりの深い『空の大怪獣 ラドン』は、↓各種公式サイトで配信中です。
さて、この「井上泰幸展」そして前回紹介の「吉阪隆正展」は、どちらも6月19日（日）まで開催予定。期間中にはGWもあり、遠方の人でも来やすい、余裕あるスケジュールが組まれています。
東京にはあまり来れないという人でも、長期連休を利用して、ぜひこの展示はその目で見てほしいなぁ。それくらい、特撮ファンとしてはかなりの刺激を受けるものになっていましたよ。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
Twitter & Instagramやってます。よろしければ↓閲覧&フォローの方お願いします！
